大人の歯が抜けてしまったら放置はNG?応急処置・治療方法について現役歯科医師が解説。

「歯が1本抜けたけど、奥歯だし見えないから大丈夫かな」
「治療にお金がかかりそうだし、痛くないからもう少し様子を見よう」

そんな風に考えて、歯が抜けたまま放置していませんか?

実は、歯を失ったまま放置することは、想像以上に大きなリスクがあります。

歯は1本1本がチームのように働いていて、たった1本なくなるだけでも、お口全体のバランスが崩れてしまうのです。

この記事では、松本市の望月デンタルクリニックの院長が、大人の歯が抜けてしまった時にまずすべきこと、放置するとどうなるのか、そしてどんな治療の選択肢があるのかをわかりやすく解説します。

大人の歯が抜ける主な原因とは?

大人の永久歯が抜けるのは、様々な原因がありますが、ここでは代表的な原因をいくつか紹介します。

歯周病による歯の喪失

歯周病は、成人が歯を失う最も多い原因です。

歯周病は「静かな病気」と呼ばれ、初期段階ではほとんど痛みがありません。

そのため、気づいた時にはかなり進行していることが多く、歯を支える骨(歯槽骨)が溶けてしまい、最終的に歯がぐらぐらして抜けてしまいます。

また、放置すると隣の歯にも影響が広がっていくため、早めの治療と定期的なメンテナンスが大切です。

重度の虫歯

虫歯が進行して歯の神経まで達し、さらに根の先に膿が溜まるような状態になると、歯を残すことが困難になることがあります。

特に、長期間放置した虫歯は、歯の構造が大きく破壊されてしまい、治療による修復が不可能となるケースがあります。

このような場合、他の歯への悪影響を防ぐため、やむを得ず抜歯となることがあります。

虫歯も歯周病同様自然治癒することはないため、定期検診などでの想起発見・早期治療が大切となります。

怪我や事故などの歯の脱落

スポーツ中の衝突、転倒、交通事故などの外傷により、歯が抜けてしまうことがあります。

外傷による歯の脱落は、歯周病や虫歯とは異なり、健康な歯が突然失われるため、適切な応急処置により歯を元に戻せる可能性があります。

ただし、処置のタイミングが非常に重要で、30分以内の対応が予後を大きく左右します。

歯が抜けてしまったらどうする?歯が抜けた場合の対処法

もしもなにかしらの原因で歯が抜けてしまった場合、以下の方法で対処してください。

歯を口の中で保存する

歯が抜けてしまった場合、まず落ち着いて行動することが大切です。

抜けた歯は元に戻せる可能性があるため、できるだけ早く適切に対応しましょう。

歯を拾うときは、必ず白い歯冠の部分を持ち、根の部分には触れないようにします。

もし汚れている場合は、水道水で軽くすすぎますが、ゴシゴシこすったり、消毒液や洗剤で洗ったりしてはいけません。

可能であれば、そのまま元の位置に歯を戻し、軽く噛んで固定します。

もし、強い出血がある場合は清潔なガーゼや布を噛んで止血してください。

口の中で保存ができない場合

抜けた歯を口の中で保存できない場合は、生理食塩水または冷たい牛乳に浸して保存します。

歯の根の表面には歯根膜という重要な組織があり、これが乾燥すると再植の成功率が大幅に低下してしまいます。

また、ティッシュペーパーなどで包むことも避け、必ず湿った状態を保つようにしてください。

歯科医院を30分以内に受診する

外傷により歯が抜けた場合、30分以内に歯科医院で再植処置を受けることで、歯を元通りに戻せる可能性が高まります。

時間が経過するほど成功率は低下するため、緊急性の高い状況と認識し、すぐに歯科医院に連絡してください。

休日や夜間の場合は、休日診療所や救急外来への受診も検討しましょう。

歯周病や虫歯で抜けた場合も、感染のリスクがあるため早急な受診が必要です。

歯を抜けたまま放置するのは絶対NG!放置の危険性について

歯が抜けてしまった場合、そのまま放置するのは様々な観点でリスクが大きいです。

歯並びと噛み合わせに影響がでる

歯が抜けた状態を放置すると、抜けた部分の両隣の歯が徐々に傾いてきます。

また、抜けた歯と噛み合っていた反対側の歯(対合歯)が、噛み合う相手を求めて伸びてくる「挺出」という現象が起こります。

これらの歯の移動により、全体の歯並びが乱れ、噛み合わせのバランスが崩れてしまいます。

一度移動してしまった歯を元の位置に戻すには、矯正治療など大掛かりな処置が必要となり、費用も時間もかかります。

顎関節症のリスクが増大する

噛み合わせのバランスが崩れると、顎の筋肉にアンバランスな力がかかり、顎関節症を引き起こすリスクが高まります。

顎関節症になると、口を開ける時の痛み、カクカクという音、口が開きにくくなるなどの症状が現れ、日常生活に大きな支障をきたします。

さらに、頭痛や肩こり、めまいなど全身症状を引き起こすこともあり、生活の質が著しく低下する可能性があります。

胃腸と全身への影響

歯を失うと咀嚼機能が低下し、食べ物を十分に噛み砕けなくなります。

その結果、大きな塊のまま飲み込むことになり、胃腸への負担が増加します。

また、硬い食べ物を避けて柔らかいものばかり食べるようになると、糖質中心の偏った食生活になりやすく、糖尿病や高血圧のリスクが上昇します。

さらに、噛む刺激の減少は脳への血流を低下させ、認知症のリスクを高めることも明らかになっています。

顔の輪郭の変化

歯を失った部分の顎の骨は、噛む刺激を受けなくなることで徐々に吸収され、痩せていきます。

この骨吸収が進行すると、歯茎が下がり、顔の輪郭が変化して老けた印象を与えることがあります。

特に前歯を失った場合は、唇の支えがなくなることで口元が内側に入り込み、審美的な問題が顕著に現れます。

骨吸収が進んでしまうと、後から治療を行う際にも選択肢が限られることがあります。

失った歯を取り戻す3つの治療方法

歯を失ってしまった場合、治療法としては主に以下の3つの選択肢があります。

  1. インプラント
  2. ブリッジ
  3. 入れ歯

インプラント:自分の歯に一番近い治療

インプラントは顎の骨に人工の歯根(チタン製)を埋め込んで、その上に人工の歯を装着する治療法です。

インプラントのメリット

  • 天然の歯に近い噛む力(約90%)を取り戻せる
  • 両隣の健康な歯を削らなくていい
  • 見た目が自然で、誰にも気づかれない
  • きちんとケアすれば10年以上使える
  • 骨が痩せるのを防げる

インプラントのデメリット

  • 手術が必要
  • 治療期間が3〜6ヶ月程度かかる
  • 保険が適用されず、費用が高め(1本30〜50万円程度)
  • 糖尿病など特定の病気がある場合は治療できないことも

インプラントがおすすめな人

  • 自分の歯のようにしっかり噛みたい
  • 健康な歯を削りたくない
  • 長期的な視点でベストな選択をしたい

ブリッジ:固定式で違和感が少ない

ブリッジは、失った歯の両隣の歯を削って土台にし、連結した人工の歯を被せる治療法です。

名前の通り、橋をかけるようなイメージです。

ブリッジのメリット

  • 固定式なので違和感が少ない
  • 治療期間が短い(2〜3週間程度)
  • 保険適用できる(使う材料によって)
  • 手術がいらない

ブリッジのデメリット

  • 健康な両隣の歯を大きく削る必要がある
  • 土台の歯に負担がかかり、将来その歯もダメになることがある
  • ブリッジの下に食べ物が詰まりやすい
  • 平均で7〜8年で作り直しが必要になることが多い

ブリッジがおすすめな人

  • 手術は避けたい
  • 早く治療を終わらせたい
  • 費用を抑えたい

入れ歯:取り外しができて安価な治療

入れ歯は取り外しできる人工の歯です。

失った歯の数に応じて、部分入れ歯と総入れ歯があります。

入れ歯のメリット

  • 歯をほとんど削らなくていい
  • 治療期間が比較的短い(1〜2ヶ月程度)
  • 保険適用できて費用が抑えられる
  • 修理や調整が比較的簡単

入れ歯のデメリット

  • 噛む力が弱い(自分の歯の20〜30%程度)
  • 毎日取り外して洗う必要がある
  • 慣れるまで違和感や異物感がある
  • 金属のバネが見えることがある(部分入れ歯の場合)
  • 3〜5年で作り直しが必要になることが多い

入れ歯がおすすめな人

  • 手術は絶対にしたくない
  • できるだけ費用を抑えたい
  • 歯をこれ以上削りたくない

どの治療法を選べばいい?比較のポイント

インプラントブリッジ入れ歯
見た目とても自然比較的自然金具が見えることも
噛む力天然歯に近いまずまず弱い
周囲の歯への影響削らない両隣の歯を削る負担がかかる
治療期間数カ月数週間1~2ヶ月
費用△(基本自費)◯(保険/自費)◎(保険/自費)
違和感少ない少ない大きい
寿命長い中くらい短め

治治療期間と費用の違い

治療期間は入れ歯が最も短く1〜2ヶ月、ブリッジが2〜3週間、インプラントは3〜6ヶ月程度必要です。

費用面では、保険適用の入れ歯やブリッジは数千円〜数万円で治療可能ですが、インプラントは自費診療のため1本30〜50万円程度かかります。

ただし、長期的な視点で見ると、インプラントの耐久性の高さから、トータルコストでは差が縮まることもあります。

健康な歯への影響度

インプラントは独立した人工歯根のため、他の歯への影響がありません。

一方、ブリッジは健康な両隣の歯を大きく削る必要があり、入れ歯は金属のバネをかける歯に負担がかかります。将

来的に多くの歯を残すことを考えると、他の歯に負担をかけないインプラントが最も有利といえます。

定期検診の重要性と予防について

歯周病や虫歯などの疾患での歯の脱落を防ぐには、定期検診での早期発見と早期治療に加えて、日々の予防がとても重要です。

定期検診による早期発見

歯を失う主な原因である歯周病や虫歯は、初期段階では自覚症状が少ないため、定期検診による早期発見が重要です。

3〜6ヶ月に一度の定期検診を受けることで、問題を早期に発見し、適切な治療により歯を失うリスクを大幅に減らすことができます。

また、プロフェッショナルクリーニングにより、自宅でのケアでは除去できない汚れも取り除けます。

日常的な口腔ケアの重要性

毎日の適切な歯磨きとフロスの使用は、歯を守る基本です。

歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れの約60%しか除去できないため、デンタルフロスや歯間ブラシの併用が推奨されます。

また、フッ素入り歯磨き粉の使用や、殺菌効果のある洗口液の活用も効果的です。

正しいブラッシング方法を歯科医院で指導してもらうことも大切です。

歯が抜けたら早急に対応すること

大人の歯が抜けてしまったら、決して放置せず早急に歯科医院を受診することが重要です。

外傷の場合は適切な応急処置により歯を元に戻せる可能性があり、歯周病や虫歯が原因の場合も、早期の治療により他の歯への悪影響を防げます。

失った歯を補う治療方法には、インプラント、ブリッジ、入れ歯それぞれにメリット・デメリットがあるため、歯科医師とよく相談し、ご自身に最適な治療を選択することが大切です。

長野県松本市の望月デンタルクリニックでは、患者様お一人おひとりの状況をしっかりお聞きし、お口の状態、全身の健康状態、ライフスタイル、ご予算などを総合的に考慮した上で、最適な治療方法をご提案しています。

「他の歯医者で説明を受けたけど、本当にこれでいいのか不安」という方のセカンドオピニオンも大歓迎ですので、お悩みの方は一度ご相談ください。

医院名望月デンタルクリニック
院長望月 一彦
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