根管治療はなぜ再発する?再治療(再根管治療)の成功率が低い原因・予防方法を根管治療専門医が解説

「神経を取ったはずなのに、また痛みが出てきた…」
「何度も歯医者に通っているのに、なかなか治らない…」
「このままだと抜歯になるって言われてしまった…」

こんな経験をお持ちの方は、決して少なくありません。

実は、日本では根管治療(歯の神経の治療)を受けた歯が再び病気になってしまうケースが非常に多く、多くの患者様が再治療を繰り返されているのが現状です。

この記事では、長野県松本市の望月デンタルクリニックの院長が、なぜ根管治療が再発しやすく再治療の成功率が低いのかの理由や、再発を防ぐためにできることなどについて詳しく解説します。

日本における根管治療の現状と成功率

多くの方は「歯医者で治療してもらったら基本的に治る」と思われているかもしれません。

しかし実際には、日本の根管治療は諸外国と比べて根管治療の成功率が低く、再び痛みや腫れが出てしまうことが多いです。

特に気をつけたいのは、最初の治療がうまくいかないと、その後どんどん歯の状態が悪くなり、早い段階で歯を失ってしまう可能性が高まるということです。

つまり、最初の治療をいかに確実に成功させるかが、その歯の寿命を大きく左右します。

日本と海外の根管治療の成功率の違い

東京医科歯科大学の調査によると、日本の根管治療は実に50〜70%が失敗しており、成功するのは30〜50%程度という結果が出ています。

一方、アメリカやヨーロッパなどの先進国では、根管治療の成功率は約90%と非常に高い水準を保っています。

この大きな差は、使っている器具や治療方法、そして治療にかける時間の違いによるものです。

日本でも世界標準の治療を受けられる歯科医院はありますが、まだまだ少ないのが現状です。

再治療(再根管治療)の成功率は更に低い?

さらに心配なのは、「一度失敗した治療をやり直す場合」の成功率です。

再治療(やり直しの治療)の成功率は、初回治療よりもグッと下がり、保険診療の場合で約20%、自費の精密治療でも約70%程度まで低下してしまいます。

その理由は、一度治療を行った歯は、すでに歯の厚みが薄くなっており、何度も治療を繰り返すことで歯がどんどん弱くなってしまうからです。

また、最初の治療で十分にお掃除ができていなかった場合、細菌が根っこの奥深くまで入り込んでしまい、「バイオフィルム」という細菌の集団を作ってしまいます。

このバイオフィルムは非常に頑固で、普通の洗浄や消毒では完全に取り除くことができません。

そして2〜3回目の再治療を重ねると、歯が薄くなりすぎて「もう治療ができません」という状態になり、最終的に抜歯せざるを得なくなることが多いです。

根管治療が再発する主な5つの原因

根管治療が再発してしまう原因は主に以下の5つです。

1. 治療中の細菌感染(唾液の混入)

実は、私たちの唾液の中には500〜700種類もの細菌が住んでいます。虫歯の原因になるミュータンス菌や、歯周病の原因になるジンジバリス菌も、この中に含まれています。

根管治療では、歯の根っこの中を無菌状態に近づけることが目標なのですが、治療中に唾液が入ってしまうと、これらの細菌が根っこの中に入り込んでしまい、治療後に再び感染を引き起こす原因となってしまいます。

本来は「ラバーダム」というゴムのシートで治療する歯を覆い、唾液が入らないようにして治療するのが世界標準です。

しかし、日本ではラバーダムを使って治療している歯科医院はまだまだ少ないのが実情で、実際、日本の一般歯科医師でラバーダムを必ず使うと答えた方はわずか5.4%、専門学会の会員でさえ25.4%に過ぎないという報告があります。

アメリカやヨーロッパでは、ラバーダムを使わないと医師免許を取り上げられるほど重要視されているのとは、大きな違いです。

2. 細菌や汚れが残ってしまう

歯の根っこの中には「根管」という細い管があります。

この管の太さは0.1mm〜0.25mm程度、髪の毛よりも細いくらいです。

しかも、この管は真っすぐではなく、複雑に曲がったり枝分かれしたりしているため、肉眼での完全な清掃は極めて困難です。

特に根っこの先の方は急にカーブしていることが多く、従来の器具では届かない部分が出てきてしまいます。

保険診療で一般的に使われているステンレス製の器具(ファイル)は硬くて曲がりにくいため、曲がった根管の隅々まで届きません。

その結果、細菌や壊死した組織が取り残されてしまい、治療後にこれらの残った細菌が再び増殖して、痛みや腫れを引き起こしてしまいます。

3. 根管を詰める薬に隙間ができてしまう

根管治療では、お掃除が終わった後、根っこの中に薬を詰めて封をします。

この「封」がしっかりできていないと、わずかな隙間から細菌が再び入り込んでしまいます。

保険診療で使われる材料は密封性があまり高くなく、どうしても小さな隙間ができやすいという問題があります。

特に、根っこの形が複雑だったり、根っこに穴が開いてしまっているようなケースでは、従来の材料では完全に封をすることができません。

このような不完全な封が、後々の再感染の原因となってしまいます。

4. 被せ物が合っていない、または虫歯になってしまう

せっかく根管治療がうまくいっても、その後の被せ物の精度が悪いと、そこから再び問題が起きてしまいます。

例えば、以下のようなケースです:

  • 根管治療が終わって被せ物を入れるまでに長い期間が空いてしまい、その間に細菌が入り込んでしまった
  • 被せ物と歯の境目に隙間があり、そこから細菌が侵入してしまった
  • 被せ物の横から新しい虫歯ができて、そこから根っこの中に細菌が入ってしまった

被せ物が合っていないと、歯と被せ物の隙間からバイ菌が根っこの中に侵入してしまうことが分かっています。

せっかくの治療が無駄にならないよう、被せ物の精度もとても重要です。

5. 見落とされている根管がある

再治療が必要になった歯を詳しく調べてみると、実は「見落とされている根管」があるケースが少なくありません。

歯の根っこの本数や形は人によって違う上、ミクロン単位(1ミクロン=0.001mm)で枝分かれしていることもあります。

通常のレントゲンだけでは、このような複雑に入り組んだ根管の全体像を把握することはとても困難です。

見落とされた根管の中では細菌が増え続け、やがて根っこの先に膿が溜まり、痛みや腫れを引き起こします。

これが「ちゃんと治療したはずなのに、また痛くなった」という状態の原因の一つです。

適切な診断機器(CTスキャンやマイクロスコープなど)を使わずに治療を行った場合、このような見落としが起こりやすくなります。

保険診療の根管治療の制約

上記の原因に加えて、日本の保険診療の仕組み自体が、根管治療の成功率を下げる要因になっています。これは歯科医院の問題ではなく、制度的な問題です。

治療時間と通院回数の問題

保険診療では、診療報酬(治療費)の仕組み上、一人の患者様にかけられる治療時間に制約があります。

一般的に、保険診療では1回の治療時間が30分程度で、4〜5回(複雑な場合はもっと多く)通院していただき、数ヶ月かけて治療を進めることがほとんどです。

治療期間が長くなると、その間に根っこの中で細菌が増殖するリスクが高まります。

また、治療と治療の間隔が空いてしまうと、仮の蓋の隙間から唾液が入り込み、せっかく消毒した根っこの中が再び汚れてしまう可能性があります。

このような状況では、いくら治療を繰り返しても、根本的な解決には至りません。

使える材料や機器に制限がある

日本の保険診療は、アメリカの約20分の1という非常に安い治療費で受けることができる反面、使用できる材料や器具に大きな制約があり、世界標準の治療を提供することが難しい状況にあります。

例えば、以下のような高性能な機器や材料は、保険診療ではほとんど使用されていません:

  • マイクロスコープ:視野を20倍以上に拡大できる顕微鏡
  • CTスキャン:歯の立体的な構造を確認できる撮影装置
  • ニッケルチタン製ファイル:柔軟で曲がった根管にも対応できるお掃除の器具
  • MTAセメント:高い密封性と殺菌作用を持つ充填材

これらの制約により、治療の精度や成功率が大きく制限されてしまっているのが現状です。

ラバーダムが使われにくい理由

実は2008年に、ラバーダムが保険適応外(保険点数に含まれない)になりました。

そのため、保険診療でラバーダムを使うと、歯科医院にとっては持ち出し(赤字)になってしまうという現実があります。

これが、日本の多くの歯科医院でラバーダムが使われていない大きな理由の一つです。

しかし繰り返しになりますが、世界標準の根管治療では、ラバーダムは必須の処置とされています。

根管治療の成功率を高めるために必要なこと

根管治療の成功率を高めるためには、以下のような欧米で標準的に行われている治療方法を実施することが重要です。

マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を使った治療

マイクロスコープを使うと、視野を肉眼の20倍以上に拡大することができます。

これにより、肉眼では見えない細かい根管の入り口を見つけることができたり、汚れがきちんと取れているかを確認しながら治療を進めることができ、見落としていた根管を発見できることもあります。

マイクロスコープを使うことで、より確実で精度の高い治療が可能になるため、成功率の向上や治療期間の短縮、そして抜歯リスクの低減につながります。

ラバーダムを使った無菌的な治療

ラバーダムを使用することで、根管治療の成功率は90%まで高まるというデータがあります(ラバーダムを使わない治療では50%以下)。

ラバーダムは、治療する歯以外をゴムのシートで覆うことで、唾液や細菌の侵入を完全に防ぐことができます。

これにより、根っこの中を無菌状態に保ちながら治療を行うことができ、治療中の細菌感染を防ぐことができます。

世界標準の根管治療では、ラバーダムは必須の処置として位置づけられています。

CT撮影による正確な診断

従来の平面的なレントゲン写真では分からなかった根管の立体的な構造を、CTスキャンにより三次元的に確認することができます。

これにより、複雑に枝分かれした根管や、隠れている病巣を正確に診断することが可能となります。

「どこに問題があるのか」「どんな形をしているのか」を事前に詳しく把握することで、より確実で成功率の高い治療を行うことができます。

治療前の診断がしっかりしていれば、見落としも少なくなります。

ニッケルチタンファイルによるお掃除

保険診療で使われるステンレス製の器具(ファイル)は硬すぎて、曲がった根管の先まで届かないことがあります。

特に根っこが曲がっている場合は、十分にお掃除できないことが多いです。

一方、ニッケルチタン製の器具は柔軟性に優れており、複雑に曲がった根管にも追従することができます。

これにより、根管の隅々まで確実にお掃除することができ、細菌や壊死した組織の取り残しを防ぐことができます。

また、根っこの本来の形を保ちながら清掃できるため、歯を削りすぎず、歯の強度を保つことができます。

MTAセメントによる確実な封鎖

MTAセメントは、アメリカで開発された、骨の再生を促す効果がある特殊なセメントです。

従来の材料(ガッタパーチャ)だけでは封鎖できなかった複雑な形の根管でも、MTAセメントを使用することで確実に密封することができます。

MTAセメントには殺菌作用もあるため、根っこの中に残ってしまった細菌を抑制する効果があります。

さらに、傷ついた組織の修復を促す効果もあるため、長期的に良い状態を保つことができます。

歯の根っこに穴が開いてしまっているような難しいケースでも、MTAセメントを使えば封をすることが可能です。

患者様ができる再発予防

ここまでは歯科医院側の対策についてお話ししてきましたが、患者様ご自身でも再発を防ぐためにできることがあります。

虫歯を早めに見つけて治療する

根管治療が必要になる前の段階で、虫歯を早期に発見し治療することが最も重要です。

定期的に歯科検診を受けることで、小さな虫歯のうちに治療を行い、神経を残すことができる可能性が高まります。

「痛くなってから行く」のではなく、「痛くなる前に定期的に診てもらう」ことが、ご自身の歯を守る一番の方法です。

また、根管治療が終わった後も、定期的にメンテナンスを受けることで、被せ物の不具合や新しい虫歯の発生を早期に発見でき、再感染を防ぐことができます。

症状が出てからでは手遅れになることも多いため、予防的な管理がとても大切です。

治療を途中でやめない

「痛みが治まったから、もう大丈夫」と思って通院をやめてしまう方がいらっしゃいますが、これは大変危険です。

根管治療中は根っこの中にお薬が入っているので細菌の増殖を抑えることができますが、時間が経つと薬の効果も切れ、再び細菌が増殖してきてしまいます。

治療を中断してしまうと、根っこの中で細菌が増え、より深刻な状態になってしまいます。場合によっては、最初より悪化してしまうこともあります。

歯科医師から提案された治療計画に従って、最後までしっかり通院することが治療成功への近道です。

精密根管治療を選択する

再治療を何度も繰り返している場合や、大切な歯を確実に残したい場合は、自費診療による精密根管治療を検討することも一つの選択肢です。

マイクロスコープとラバーダムを使った精密根管治療は、5年後も90%以上の歯が残っているという成果が出ており、保険での根管治療と比較して、圧倒的に良い結果となっています。

初期費用は高額に感じるかもしれませんが、以下の点を考慮すると、長期的には有益な選択となることが多いです。

  • 再治療を繰り返すことによる時間的・経済的な負担
  • 何度も治療に通う精神的なストレス
  • 最終的に抜歯となり、インプラントやブリッジが必要になるリスク

根管治療は最初の治療で決まる

「神経を取った歯を、いかに長持ちさせるか」は、最初の治療がうまくいくかどうかにかかっています。

日本では根管治療の再発率が非常に高く、多くの患者様が再治療を繰り返されている現状がありますが、適切な設備と治療方法で治療を行うことで、再発率を大きく下げることは可能です。

大切なのは、「なぜ再発するのか」を理解し、「どうすれば再発を防げるのか」を知っていただき、ご自身の歯を守るために、最適な治療を選択していただくことです。

長野県松本市の望月デンタルクリニックでは、世界標準の根管治療に準拠した治療を行っています。マイクロスコープ、ラバーダム、CT、ニッケルチタンファイル、MTAセメントなどの設備を駆使し、十分な時間をかけて丁寧な治療を行っています。

「何度治療しても治らない」「また痛みが出てきた」「抜歯と言われたけど、本当に抜かないとダメなのか知りたい」など、根管治療でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

皆様の大切な歯を長期的に保存するお手伝いをさせていただきます。

医院名望月デンタルクリニック
院長望月 一彦
TEL0263-87-7273
所在地〒390-0851 長野県松本市大字島内3739-3
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