食事中に硬いものを噛んだ瞬間、「バキッ」という音とともに歯が欠けてしまった経験はありませんか?
歯が割れたり欠けたりするトラブルは、誰にでも起こり得る身近な問題です。
実は、歯が割れたり欠けたりする「歯牙破折(しがはせつ)」は、虫歯や歯周病に次いで歯を失う原因の第3位に挙げられています。
歯牙破折には、目に見える歯の白い部分が割れる「歯冠破折(しかんはせつ)」と、歯茎の中の見えない根の部分が割れる「歯根破折(しこんはせつ)」の2つの種類があります。
歯冠破折は比較的気づきやすいのですが、歯根破折は見えない場所で起こるため、発見が遅れて重症化しやすいという特徴があります。
どちらのタイプの破折も、適切な初期対応が歯を残せるかどうかの分かれ目となります。
この記事では、長野県松本市の望月デンタルクリニックの院長が現役歯科医師の視点から、歯が割れた・欠けたときにすぐやるべき応急処置、歯冠破折と歯根破折それぞれの原因と症状、そして治療方法まで詳しく解説します。
歯が割れた・欠けたときの緊急対処法
歯が割れたり欠けたりしたときは、初期対応が非常に重要です。
以下の5つのポイントを押さえて、正しい応急処置を行いましょう。
1. 欠けた部分に触らない
歯が欠けると、どうしても気になって舌や指で触ってしまいがちです。
しかし、欠けた部分を触ると、さらに割れが広がったり、細菌が侵入したりするリスクが高まります。
また、欠けた歯の表面はザラザラしているため、舌や唇を傷つける恐れもあります。
欠けた大小にかかわらず、患部には触れないようにしましょう。
2. 欠けた歯の破片を適切に保管する
欠けた歯の破片が見つかった場合は、必ず保管してください。
歯の状態や保管方法によっては、歯科医院で修復に用いることができる可能性があります。
破片の保管方法は以下の通りです。
- 生理食塩水に浸す(最適)
- 牛乳に浸す
- 歯の保存液に浸す(薬局で購入可能)
- 清潔な口の中で保管する(飲み込まないよう注意)
絶対に避けるべきことは、水道水で洗う、消毒液につける、乾燥させることです。
これらの行為は、歯の表面にある重要な組織「歯根膜(しこんまく)」を死滅させてしまうため、再植の成功率を大幅に下げてしまいます。
3. ぬるま湯で口の中を優しくすすぐ
欠けた部分から細菌が侵入するのを防ぐため、ぬるま湯で優しく口をすすぎましょう。
これにより、傷口を清潔に保ち、食べ物や異物が入り込むのを防げます。
ただし、強くうがいをすると歯茎に悪影響を与える可能性があるため、優しくすすぐ程度にとどめてください。
4. 痛みがある場合は鎮痛剤を服用する
歯が欠けたことで神経が露出している場合、強い痛みを感じることがあります。
痛みが激しい場合は、市販の鎮痛剤を服用して痛みを和らげましょう。
ただし、歯茎や傷口に直接塗布するタイプの鎮痛剤は、炎症を起こす可能性があるため使用しないでください。
5. できるだけ早く歯科医院を受診する
痛みがない場合でも、できるだけ早く歯科医院を受診することが重要です。
欠けた部分から神経が露出していると、細菌感染が起こりやすくなります。
早期に受診して治療を開始することで、神経を保存できる確率が上がり、最悪の場合の抜歯を避けられる可能性が高まります。
近年の歯科技術や接着剤の進歩により、以前は抜歯しかなかった症例でも、歯を残せるケースが増えています。
ただし、破折後の経過時間が長くなるほど成功率は低下するため、速さが重要です。
欠けたときにやってはいけないNG行動
歯が割れた・欠けたときに、誤った対処をすると状況を悪化させてしまいます。
以下の行動は絶対に避けましょう。
市販の接着剤で自分で接着する
市販の瞬間接着剤などは口腔内の組織に有害であり、歯のさらなる損傷を引き起こします。
また、接着剤を使用すると歯科医院での修復ができなくなることもあります。
欠けた歯で硬いものを噛む
歯が欠けるということは、その歯が脆くなっている可能性があります。
硬いものを噛むと、欠けた部分がさらに拡大する恐れがあります。
欠けたまま放置する
痛みがないからと放置すると、欠けた部分から虫歯が進行したり、噛み合わせが悪くなって他の歯にも影響が及んだりします。
歯冠破折・歯根破折が起こる主な原因
歯は体の中で最も硬い組織であるエナメル質で覆われています。
歯冠破折と歯根破折では、起こりやすい原因が少し異なりますが、共通する要因も多くあります。
ここでは、主な原因を解説します。
外傷による破折
最も分かりやすい原因が、外部からの強い衝撃です。
転倒や交通事故、スポーツ中の接触などで歯に強い力が加わると、歯が割れたり折れたりすることがあります。
前歯は特に外部からの衝撃を受けやすく、転倒や事故によって欠けやすい部位です。
外傷による破折は、主に歯冠破折として現れます。
ぶつかった瞬間に歯の見える部分が欠けたり、完全に折れてしまったりするケースが多いです。
子どもや高齢者は転倒のリスクが高いため、特に注意が必要です。
また、コンタクトスポーツや格闘技などを行う方は、外傷による歯の破折リスクが高くなるため、予防策として、スポーツマウスガードの装着をおすすめします。
虫歯の進行
虫歯が進行すると、歯のエナメル質や象牙質が溶けて弱くなります。
エナメル質は歯の表面を保護する硬い層ですが、虫歯菌がこれを溶かし、内部の象牙質に達すると歯全体が脆くなります。
特に虫歯が大きくなった場合、噛む力に耐えきれず、歯が割れたり欠けたりするリスクが高まります。
虫歯による破折は、主に歯冠破折として現れます。
虫歯で歯が欠けた場合、見た目には小さな欠けに見えても、内部では大きく空洞になっていることもあります。
外側のエナメル質は残っていても、中の象牙質が溶けて空洞になり、噛んだ拍子に表面が崩れ落ちるように欠けるケースも少なくありません。
また、虫歯治療後の歯も、健康な歯よりも強度が劣るため破折しやすくなります。
特に何度も治療を繰り返している歯は、削られて薄くなっているため、さらに脆くなっています。
歯ぎしり・食いしばり
睡眠中の歯ぎしりや、日中の無意識な食いしばりは、歯に過度な力をかける原因となります。
噛む力は平均で男性が約60kg、女性が約40kgもあると言われており、歯ぎしりではさらに強い力がかかります。
長期間にわたって強い力が加わり続けることで、歯に微細なヒビが入り、そこから割れてしまうケースがあります。
無意識のうちに力がかかるため、自覚がないまま症状が進行していることも少なくありません。
歯ぎしりや食いしばりは、歯冠破折と歯根破折の両方の原因となります。
特に奥歯は噛む力が集中しやすいため、長年の蓄積によって疲労破壊を起こしやすくなります。
また、神経を抜いた歯がある場合は、さらに破折のリスクが高まります。
神経を抜いた歯の脆弱化
虫歯などで神経を取る治療(根管治療)を受けた歯は、歯根破折のリスクが大幅に上がります。
神経を抜いた歯は、栄養や水分の供給が途絶えるため、まるで「枯れ木」のように脆くなります。
生きている木は水分を含みしなやかさがあるため、簡単には折れませんが、、枯れ木になると水分がなくなり、しなやかさも失われて折れやすくなります。
歯も同様に、神経や血管が通っている部分(歯髄)を取り除くと、柔軟性を失い、割れたり欠けたりしやすくなってしまいます。
実際、ある歯科医院の報告では、歯根破折の約90%が神経を抜いた歯で発生しているというデータもあります。
神経を抜いた歯は、見た目には健康に見えても、内部では脆くなっているため、歯冠破折だけでなく歯根破折のリスクも高くなります。
特に大きな虫歯で何度も治療を繰り返している歯は、削られて薄くなっているため、さらに脆くなっています。
適切な被せ物で保護することが、破折を防ぐために重要です。
歯冠破折と歯根破折の違い
歯が割れる・欠けるトラブルには、「歯冠破折」と「歯根破折」という2つのタイプがあります。
歯冠破折(しかんはせつ)とは
歯冠破折は、歯茎より上に見えている歯の白い部分(歯冠部)が割れたり欠けたりすることです。
目で見て確認できるため、比較的早期に気づきやすいという特徴があります。
歯冠破折は、欠けた大きさによって軽度、中等度、重度に分類されます。
エナメル質だけが少し欠けた程度なら痛みはありませんが、象牙質や神経に達すると痛みを感じるようになります。
歯根破折(しこんはせつ)とは
一方、歯根破折は歯の根の部分にあたる「歯根(しこん)」が、主に縦に割れたり、ひびが入ったりすることです。
歯茎の中に隠れている部分で発生するため、外見からは分かりにくく、発見が遅れることが多いのが特徴です。
歯根破折は、歯冠破折に比べて治療が難しく、予後も不良なケースが多いため、早期発見が非常に重要です。
どちらが深刻?
どちらも放置すると歯を失う原因となりますが、一般的には歯根破折の方が深刻です。その理由は以下の通りです。
- 発見が遅れやすい
- 治療の選択肢が限られる
- 抜歯になる可能性が高い
- 周囲の骨にも影響を及ぼしやすい
ただし、歯冠破折でも神経に達している場合や、大きく欠けている場合は緊急性が高くなります。
どちらのタイプでも、早期の受診が歯を残すための鍵となります。
歯冠破折の症状
歯冠破折は目で見て確認できるため、比較的分かりやすいですが、欠けた大きさによって症状が異なります。
軽度の歯冠破折
エナメル質だけが少し欠けた状態で、この段階では以下のような特徴があります。
- 痛みはほとんどない
- 見た目が少し気になる程度
- 舌で触るとザラザラする
- 冷たいものがしみることがある
軽度の場合でも、欠けた部分から虫歯が進行しやすくなるため、早めの治療が推奨されます。
中等度の歯冠破折
象牙質まで欠けた状態で、以下のような症状が現れます。
- 冷たいものや熱いものがしみる
- 甘いものや酸っぱいものが触れると痛む
- 歯磨きの際に痛みを感じる
- 欠けた部分が黄色っぽく見える
象牙質は神経に近いため、刺激が神経に伝わりやすくなります。
放置すると神経まで細菌が到達する危険性があります。
重度の歯冠破折
神経(歯髄)まで達している、または歯冠の大部分が欠けた状態です。
- 激しい痛みがある
- 何もしなくてもズキズキ痛む
- 息を吸っただけでも痛む
- 出血が見られることもある
- 神経が露出して見えることがある
この段階では緊急の治療が必要です。
神経が露出している状態を放置すると、細菌感染が起こり、神経が死んでしまう可能性があります。
歯根破折の症状
歯根破折の最大の問題は、初期段階では明確な症状が現れにくいことです。
歯茎の中という見えない場所で起こるため、虫歯のような激しい痛みが出ることは少なく、気づかないうちに進行してしまいます。
歯根破折の症状
- 噛むときにズキンとした痛みがある
- 歯茎が腫れる、膿が出る
- 歯がグラグラする
- 被せ物がよく外れる
- 歯茎から出血する
- 口臭が気になる
歯根破折が起こりやすい条件
歯根破折は特定の条件下で起こりやすくなります。
以下のリスク要因に該当する方は特に注意が必要です。
神経を抜いた歯(失活歯)
前述の通り、神経を抜いた歯は歯根破折の最大のリスク要因です。
特に大きな虫歯で何度も治療を繰り返している歯は、削られて薄くなっているため、さらに脆くなっています。
金属の土台(メタルコア)を使用している歯
重度の虫歯で歯の土台までダメージを受けている場合、被せ物を装着するための土台が必要になります。
金属の土台は天然の歯よりも硬いため、噛む力が加わったときに歯根に負担をかけ、歯根破折を招きやすくなります。
研究によると、レジンコアやファイバーコアを使用することで、歯根破折の発生率を低くできることが明らかになっています。
ファイバーコアは天然歯に近い弾性を持つため、歯根破折になりにくく長持ちします。
歯ぎしり・食いしばりの習慣がある
日常的に歯ぎしりや食いしばりをしていると、歯に過度な負荷がかかり続けます。
特に奥歯は噛む力が強くかかるため、長年の蓄積によって疲労破壊を起こしやすくなります。
不正咬合(噛み合わせの問題)
開咬や反対咬合、過蓋咬合などの悪い噛み合わせは、特定の歯に過度な力がかかる原因となります。
咬合性外傷や歯根破折を起こしやすいリスクがあるため、矯正治療で噛み合わせを整えることも予防につながります。
加齢による変化
年齢を重ねると、歯の内部にある象牙質が徐々に硬化し、割れやすくなります。
また、歯髄が縮小し、神経や血流が少なくなることで、歯自体の修復能力が低下します。
こうした自然な老化現象も、歯根破折のリスクを高める要因となります。
歯が割れた・欠けた時の治療方法
歯が欠けたり割れたりした場合の治療方法は、破折のタイプ(歯冠破折か歯根破折か)、欠けた範囲や症状の重さによって異なります。
小さな欠けの治療:コンポジットレジン修復
欠けた範囲が小さい場合は、コンポジットレジンという白いプラスチック製の材料で修復します。
歯を削る必要が少なく、治療は通常1回で完了します。歯の色に合わせて調整できるため、見た目も自然です。
中程度の欠けの治療:インレー(詰め物)
欠けている範囲が大きい場合、型を取って詰め物を作成します。
材質は金属やプラスチック(保険適用)、セラミックやゴールド(自費治療)などがあり、見た目や耐久性、予算に応じて選択します。
治療は通常2回程度で完了します。
大きな欠けの治療:クラウン(被せ物)
歯冠部分の大半が欠けている場合は、クラウン(被せ物)で全体を覆います。
大きく欠けている場合は神経を取る治療が必要になることもあります。
材質は保険適用の金属プラスチック、自費治療のセラミックやジルコニアなどがあり、治療回数は3〜6回程度が目安です。
歯根破折の治療:保存療法or抜歯
歯根破折の治療は、破折の程度や位置によって異なります。
保存できる場合
最近では歯科用接着剤や治療技術の進歩により、抜歯せずに歯を修復できるケースが増えています。
歯根破折接着修復法や、歯の根が複数ある場合は割れている根だけを抜歯する部分抜歯という方法があります。
ただし、破折後の経過時間が重要で、早期発見・早期治療が成功の鍵となります。
抜歯が必要な場合
歯根が深い部分まで割れている場合や、垂直に大きく割れている場合は抜歯が必要です。
抜歯後はブリッジ、部分入れ歯、インプラントなど、希望に合わせた選択肢があります。
抜歯を避けるためには定期的な歯科検診で早期発見することが重要です。
歯冠破折・歯根破折を防ぐための予防策
歯が割れたり欠けたりするのを防ぐには、日常生活での予防が大切です。
定期的な歯科検診を受ける
虫歯や歯周病を早期に発見し、適切に治療することで、歯が脆くなるのを防げます。
また、微細なヒビや破折の兆候を早期に見つけることもできますので、3〜6ヶ月に1回は歯科医院での定期検診をおすすめします。
歯ぎしり・食いしばり対策をする
睡眠中の歯ぎしりや食いしばりの癖がある方は、ナイトガードというマウスピースで歯をダメージから保護しましょう。
歯ぎしりによる歯のすり減り防止、歯への過度な力の分散、歯根破折のリスク軽減、顎関節への負担軽減などの効果があります。
ナイトガードは歯科医院で作成でき、保険適用で3,000〜6,000円程度で作れます。
硬いものの食べ方に注意する
氷やナッツ、硬い煎餅などを噛むときは、特に神経を抜いた歯や過去に治療した歯で噛まないよう注意しましょう。
これらの歯は脆くなっているため、割れやすい傾向があります。
スポーツマウスガードを使用する
コンタクトスポーツや格闘技などを行う方は、スポーツマウスガードを装着して外傷から歯を守りましょう。
歯科医院でオーダーメイドのマウスガードを作ることができます。
適切な治療法を選択する
神経を抜いた歯に被せ物をする際は、金属の土台ではなく、ファイバーコアなど天然歯に近い弾性を持つ材料を選ぶことで、歯根破折のリスクを減らせます。
また、被せ物を装着することで、歯全体を補強し、破折を防ぐことができます。
不正咬合を治す
噛み合わせに問題がある場合は、矯正治療などで改善することも検討しましょう。
特定の歯に過度な力がかかる状態を改善することで、歯根破折のリスクを低減できます。
歯冠破折・歯根破折治療は長野県松本市の「望月デンタルクリニック」
長野県松本市の望月デンタルクリニックでは、歯が割れた・欠けたときの緊急対応から、歯冠破折・歯根破折の診断・治療まで、幅広く対応しております。
少しでも気になる症状がございましたら、お早めにご相談ください。
大切な歯を守るために、適切な診断と治療をご提供いたします。
| 医院名 | 望月デンタルクリニック |
| 院長 | 望月 一彦 |
| TEL | 0263-87-7273 |
| 所在地 | 〒390-0851 長野県松本市大字島内3739-3 |
| 診療時間 | 月~金 9:00-12:30 / 14:00-18:30土 9:00-12:30 / 14:00-17:00 |
参考文献
- 厚生労働省:医療広告ガイドライン
- 日本歯科保存学会:歯の破折に関する研究
- 各歯科医院の臨床データ
